女子高生を引き付けるプリクラの技術経営 ~第1回プリクラトップシェア企業

1995年に誕生し、17年以上もの間、その時々の女子高生から支持され続けてきたプリクラ機。プリクラ機の中核にあるのは、ユーザの理想とするイメージを作る「技術」。プリクラメーカーはどのようにして、女子高生の理想を「技術」に変えてきたのか?プリクラメーカーでトップシェアを持つフリュー株式会社を取材して明らかになったことを中心に、全4回にわたってお送りする。


■ 女子中高生が支持する機械

繁華街のゲームセンターには、女子中高生を中心に人気の撮影マシン(通称「プリクラ」)が何種類も並んでいる。見た目は、どれも直方体の筐体に包まれた、似たような機械。若い女性達は、これをどのように選んでいるのだろうか。

現在プリクラを生産しているメーカーは「バンダイナムコ」、「メイクソフトウェア」、「フリュー」、「辰巳電子工業」、「IMS」の5社である。それぞれのメーカーが、独自の“機種”を作り上げている。業界誌『アミューズメントジャーナル』に毎月掲載されている、利用者数上位5機種は、毎月、フリューとメイクソフトウェアの機種で構成されている。

ユーザの女子中高生達に好きなプリクラ機を聞くと、例えば2012年11月~2013年1月くらいでは、『GiRLS’ PHOTOGRAPHER』か『OH ! MY GIRL』という2つの答えに分かれ、前者がフリューの機種、後者がメイクソフトウェアの機種であり、両社が2大勢力であることがわかる。マーケットシェアとしては、フリューが5割以上のトップシェアを占めていると、業界では知られている。

好きなプリクラ機を答えてもらった女子中高生達に、その理由を聞くと、多くの人が「うつりが良いから」と答えた。ここでいう「うつり」とは、「カメラ写り」の「写り」とはちょっと違う。普通「写り」とは、カメラの「光学処理」技術だけで作るものだが、プリクラでいう「うつり」とは、カメラの「光学処理」技術とコンピュータの「デジタル画像処理」技術の両方で作るものである。「カメラが撮影する実際の姿」と「写真に出力される姿」との差は全て「うつり」である。プリクラユーザがプリクラを利用する目的は「実施よりも理想的な写真を作る」ことにあるから、「うつり」を作ることはプリクラの中心的機能である。

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話を聞いた女子中高生の意見をもとに、プリクラメーカー5社の機械の特徴を、私は次のように分析した。辰巳電子工業は、「うつり」技術よりも、周辺的機能を重視した機械を作る。例えば、ユーザが自由に文字やイラストを合成できる機能や、ユーザの携帯電話へ画像を転送する機能などでは、新しい試みをする。バンダイナムコとIMSは標準的な機械を作る。フリューとメイクソフトウェアは、「うつり」技術において、高性能な機械を作る。そしてフリューは、それに加えて、新しい設計思想の「うつり」技術を取り入れた機械を作る。

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その典型的な例が、2011年の『LADY BY TOKYO』という機種だ。当時のプリクラはどの機種も、目が他のパーツよりも極端に目立つように、画像処理をしていた。そのため出力された写真は、誰が見てもプリクラで作ったとわかるものだった。しかし『LADY BY TOKYO』は、ユーザの理想とする顔に変換するものの、目ばかりを目立たせることのない、顔の全体感を大事にする画像処理を行った。その結果、文字やイラストを合成しなければ、普通のカメラで成功したと見まちがう「うつり」になった。この機械は大ヒットし、その後はどのメーカーも似たような画像処理の機械を生産し、2013年3月現在もそれがプリクラの標準になっている。

このようにプリクラ業界では、一社から新しい設計思想の機械が生産され、ヒットすると、他社も追いかけ、プリクラの新しい様式となる。新しい様式が「2年くらいごとに生まれる」と業界では言われている。2005年はナムコ、2009年はメイクソフトウェアから新しい様式が生まれたが、それ以外は2006年も、2007年も、2011年もフリューから新しい様式が生まれている。

女子中高生が最も支持するのは、フリューの機械のように、プリクラの周辺的機能ではなく、中心的な「うつり」技術において高性能の機械であり、さらに新しい設計思想を提案するような機械である。フリューとはいったいどのような企業だろうか?

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