女子高生を惹きつけるプリクラの技術経営 ~第2回女性企画者と男性技術者

■ 初の女性正社員

「フリューの機械の流れを大きく変えたのは、さらに次の機械。2006年夏に発売した『姫と小悪魔』は、女性が企画のリーダーを務めた、初めての機械。それまでは、プリクラの企画をするのも男性だった。しかし2005年、技術部門のプログラマーとして入った新入社員の中に女性がいた。正社員として初めての女性だった。彼女はプリクラユーザだったので、企画の男性達がプログラマーの彼女に、相談することが増えた。そしてついに、彼女は最終的に企画の部門に本格的に移動することになった。彼女が企画のリーダーとなり、初めて開発したのが『姫と小悪魔』という機械。この機械は、当時のプリクラの中で、売上トップになった。」

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『姫と小悪魔』(フリュー)
参考資料 http://www.am-j.co.jp/newmachine/200606/006.html

この女性の名は稲垣涼子氏。彼女は、『姫と小悪魔』を大ヒットさせたその後も、2007年、2009年とプリクラの新しい流れを作る、大ヒット商品を生み出す女性である。

「『姫と小悪魔』は、技術的には全く新しい要素の入っていない機械だった。それまでの機械と違う特徴は、”背景”や”らくがき”の色味を、自動的に統一させたこと。」

”らくがき”とは、撮影の後、ユーザが自由に、写真の上に合成できる文字やイラストのことだ。”背景”や”らくがき”を合わせて、フリューでは「コンテンツ」と呼んでいる。そういった「コンテンツ」の色はそれまで、ユーザが自由に、多く用意された色の中から選択していた。

「具体的には、”ふんわり”したうつりと、”くっきり”したうつりの2種類を用意し、”ふんわり”を選択すると、コンテンツの色が、パステルカラーで自動的に統一され、”くっきり”を選択すると、ビビッドカラーで統一されるようにした。彼女が主張したのは、どんなにうつりが良くても、コンテンツの色がごちゃごちゃだと、仕上がりが悪くなる。最高の仕上がりを提供して、うつりの良さに気づいてもらいたい、ということだった。」

「この頃には、私はもう、プリクラの開発現場の京都を離れ、東京の本社でプリクラ事業全体の統括をする役割になっていた。でも、この商品に対しては、開発現場でもめていた様子を聞いていた。技術部門の男性達からは、この企画であればわざわざ新商品で出す必要はないと、反対の意見が出た。営業からは既存の機械のバージョンアップキットとして出せばよいのではないかという意見も出た。」

バージョンアップキットとは、基本的な機械はそのままで、ソフトウェアや内装外装のデザインのみを取りかえるために提供する一式のことである。プリクラに限らず、アミューズメントマシンでは、通常の商品で3回、人気のある商品で4回、このバージョンアップキットによってバージョンアップを行う。

「それまでは、新しい商品には何か一つでも新しい技術を取り入れるという考えがあったので、反対意見が出るのも当然だった。」

「しかし、ある会議で稲垣さんが、色味を統一して作ったサンプルを全員に見せた瞬間、その場に居合わせた派遣社員の女性が『これは素晴らしい』と大絶賛をした。男性達は『技術的になんの進化もない、そんな企画で本当によいのか』と言ったけれど、しかし結局、商品化することにした。それが、大ヒットした。」

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