世界に日本の「プリクラ文化」を伝えるブロガー サマンサさん

■ 世界の誰にも劣等感

 「なぜ、西洋人なのに、プリクラが必要なの?」私はまず、彼女に一番聞きたかったことから聞きました。どういうことかというと、近年のプリクラへのユーザの主な目的は、実際よりも目を大きく、肌を白く、髪の色を明るく、顔を小顔に変身することです。プリクラはそれを光学処理とデジタル画像処理を組み合わせて作り出します。しかしこの変身の方向は、西洋人の特徴であり、西洋人のサマンサさんも例外ではなく、もともと目が大きく、肌が白く、髪は金髪で、小顔です。プリクラを使う必要がないのではないかと思ったのです。

「確かに、目を拡大する機能はいらない。外国人の友人達も皆、そう言っています。でも、私は肌があれやすいので、プリクラで肌がきれいに写るのはうれしい。あと目の下にクマができやすいので、それが消えるのもうれしい。小顔になることもうれしい。」

 日本人がプリクラを好む背景には、日本人特有の「西洋人の顔への憧れ」や「日本人自身の顔への劣等感」があると、私は考えていました。それは、プリクラだけではなく、お化粧がさかんなことにも表れます。目を大きく見せるための「マスカラ」や「つけまつげ」、肌を白く見せるための「ファンデーション」や「パウダー」、顔を立体的に見せるための「シェーディングパウダー」、髪を明るくするための「カラーリング剤」など、それらは全部、西洋人の顔に近づくための道具と言えます。その原点は、明治時代の文明開化に遡ります。まず貴族の間で使われ始め、大正時代には女性雑誌の誕生と共に大衆化が始まり、戦後さらに大衆化しました。今は、アジア各国にも、同じような化粧文化が広がっていますが、日本ほど、一般の誰もが、日常的に、手の込んだ化粧をしている国はありません。日本人ほど西洋人の顔に憧れ、自分達の顔に劣等感を持っている民族は他にないのではないかと、考えていました。

「自分の顔に劣等感を持っているのは西洋人も同じだと思います。私のように肌あれや、目の下のクマに悩んでいる人は多いです。それに、私たちはまつげが金色で、そのままでは顔が薄くなるから、まつげを黒くするのが大変。イギリスにはtintingという、まつげのカラーリング専用のサロンがあるから良いけれど、日本にはないから、毎日一生懸命マスカラを塗らなくてはいけません。日本人は最初から、まつげが黒くてうらやましいと思っています。結局、どの国の人も、ないものねだりなのではないかと思います。」

「私は劣等感でプリクラを使うのはよくないと思います。日本人だけでなく、私の友人の外国人でも、普通の写真の自分は嫌いで、プリクラ写真の自分だけが好きと言っている人がいますが、”美しくなる”ことだけを目的にプリクラを使うのは、よくないと思っています。多くの女性が外見に劣等感を持つのには、雑誌などに出ているモデルさんが、完璧すぎることが原因だと思います。でもその写真だって画像処理をしています。雑誌というのはそれを隠し、一方プリクラは隠しません。プリクラは、写っている人も、それを見る人も、画像処理を知っている。それがプリクラのよいところで、プリクラはあくまでも楽しむためのものだと思います。」

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