「プリクラ」と「自撮り」のビューティーハッカー 大賀彩貴さん

既製品に飽き足らず、創造する理由

彼女は、既成の商品、既成のソフトウェア、既成の流通システムなどを、そのまま利用しない。全て熟知した上で、あらゆるシステムの良いところだけを取り出して、組み合わせて、自分にとって最高のシステムを作り上げる。それは創造といえる。このような彼女の創造が生まれる仕組みを知りたいと考えた。それがわかれば、誰でも真似できるかもしれないし、企業のイノベーションにも活かせるかもしれないからだ。

まず彼女の行動のインセンティブを考えてみた。既存のシステムの利点や欠点を見抜くための詳細な観察、より良いシステムを自作するための試行錯誤には、膨大な労力がかかっている。そのようなパワーを発揮するには何か誘因があるはずだ。彼女は「全ては美しくなるため」と言った。ではなぜ美しくなりたいか。生物学的には男性から注目されるためと予測できるが、「男性の目は意識していない」と答えた。次に、社会学的に女性同士での競争あるいは協調のためと予測したが、「女性の目も意識していない」と答えた。「私はいったい何を気にしているのかしら」と彼女自身も迷い始めた。「私は、ギャンブルもしたくないし、お酒やたばこもあまりしたくない。それが自分に対する理想像であって、そこには理由もない。美を求めるのも、それと同じ感じ」と答えた。彼女を誘引しているのは、「理想」としか言いようのない、論理化しづらいものであるということしか、まだわからない。

次に彼女のインスピレーションについて考えてみた。彼女の創造的な発想は、同じように観察や試行錯誤の労力を費やすだけ生まれてくるものとは思えない。例えば、彼女がプリクラを動かすプログラムの内容をつかんだり、世界中の写真加工アプリから機能の利点を見出すことには、情報技術を使いこなすことへの直感が優れているように私は考えた。思い当たることを彼女自身に聞いてみると、「確に情報機器を使うのは、いつも早い方ではあった。小学3年生の時には、雑誌で見つけた洋服をいつもインターネットで調べたりよくしていた。うちは父が情報機器が好きなので、例えばipadなど発売された時も、すぐに自分の分と別に、私の分も買ってくれました」彼女のハッカー的インスピレーションは、そのような境遇に依存しているのではないかと考えた。